1961年、アメリカ
数々の名門大学医学部で学業を終えた若者が、皮膚科医として働き始めました。
真摯に患者と彼らの皮膚症状に向き合い、研究を重ねます。
その功績と実力が認められ、12年後の1973年にはカリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科教授に任命されました。
その後もフランスやデンマークの大学から名誉学位を授与されたり、多くの皮膚炎研究グループや学会にも参加。
アメリカ国内外で多くの名誉や賞を授与する名医となりました。
彼の名はハワード・マイバッハ。
世界で初めて「敏感肌」の症状を論文で取り上げた皮膚科医です。
敏感肌のはじまり
ハワード医師は長年、カリフォルニア大学の一部であるサンフランシスコのクリニックに勤務。研究だけでなく患者の診察にも力を入れ続けています。
熱心なハワード医師が、クリニックでの仕事を始めて20年ほど経った頃のこと。
毎日数えきれないほど多くの接触性皮膚炎の患者を診察する中で、ある疑問を抱くようになります。
それは、多くの患者に見られる化粧品成分によるアレルギー症状。
特に染毛剤、香料、防腐剤などの化粧品成分に対する急性アレルギー性皮膚炎を訴える患者がとても多い。それなのに、その原因などについて十分に検証されていないことに対する疑問でした。
そこで、ハワード医師は自ら研究を開始します。
そして1988年に世界で初めて敏感肌に関する論文を発表。
「化粧品不耐症の管理」というタイトルでした。
まだ「敏感肌」という言葉もなかったんですね。
でも、その内容は今でも続く敏感肌の症状に関するものでした。
敏感肌の症状
20年以上、患者の皮膚症状に向き合ってきたハワード医師は、次のような症状を敏感肌と定義しました。
- つっぱり感
- 灼熱感
- ヒリヒリ感
- うずうずするような痛み
- かゆみ
- チクチク感
化粧品を使った後、これらの複数の感覚が発生することが「化粧品不耐症」。つまり、敏感肌だとしたのです。
敏感肌はアレルギー発症率が5倍?
最近の疫学調査では、敏感肌の人は皮膚アレルギーを発症しやすいことが示されています。
敏感肌出ない人に比べて皮膚アレルギーを発症する傾向が1.8~5倍も高いと推定する研究もあるほどです。
でも実は、敏感肌とアレルギーがどう関連しているのかは、よくわかっていません。
2013年の研究では毎日のスキンケアの影響も指摘されています。
男性は最大85種類、女性は最大168種類の化粧品成分を使用していて、これらの成分が皮膚炎や敏感肌につながる可能性が示されているのです。
化粧品による皮膚炎の発症事例は少なくありません。皮膚科を受診する全患者の2%から4%を占めるというデータもあります。
でも、肌にトラブルが生じても皮膚科へ行かなかったり、怪しい成分を避けて予防することも多いですよね。そのため、実際に化粧品が原因で肌トラブルを発症している人はもっと多いことが予想されています。
成分の経皮吸収で敏感肌に?
敏感肌やアレルギー症状において、化粧品成分の経皮吸収のリスクを無視することはできません。そこで、ハワード医師は仲間とともに経皮吸収の研究にも取り組み始めます。
今では経皮吸収に関する研究の第一人者とされています。
化粧品成分や化学物質は皮膚を通り抜けるのか。体内に侵入するとどうなるのか。
彼が本格的な研究を始める前は詳しくわかっていませんでした。ですが、敏感肌や皮膚疾患の治療や予防には、経皮吸収に関する知識は不可欠です。
- どのように物質が皮膚を通り抜けるのか
- どんな条件なら通り抜けるするのか
- 皮膚から体内に侵入した場合の影響は?
経皮吸収に対する理解を深めるために必要な知識や実験の前提条件を確立し、動物や人間の肌を対象に経皮吸収の研究を進めます。
かつてはよくわからなかった皮膚の仕組みについて理解を深めることに、ハワード医師は貢献したんですね。
さいごに
ハワード医師の功績はすばらしいです。でも、彼が初めて敏感肌に関する研究論文を発表してから、もう35年以上。
それでも今なお、敏感肌に悩む人は減るどころか増え続けています。
医学や研究は日々進歩します。
でも、どんな化粧品を選んで使うかは、最終的には消費者の判断。
思わぬ肌トラブルを予防するためにも、アレルギーや刺激の原因になる成分を自分自身でできるだけ気をつけることも大切ですね。
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