メイクアップ製品から検出されたPFAS
2021年。化粧品にPFASという化学物質が含まれていることが、欧米で大きく報道されました。きっかけは複数の大学が共同で実施した調査。
ノートルダム大学、トロント大学、インディアナ大学、チューリッヒ工科大学が調査した結果、北米で購入した231種類の化粧品のうち52%にPFASが含まれている可能性が発表されたのです。
特に高濃度に検出されたのは下記のカテゴリー:
- ウォータープルーフのマスカラ
- リキッドタイプの口紅
- ファンデーション
さらに分析したところ、人体への影響が懸念されるPFASが少なくとも4種類含まれていることも確認されました。また、PFASが含まれていたほとんどの製品には、全成分表にPFASの記載はありませんでした。
PFAS(ピーファス)とは
PFASとは4730種を超える有機フッ素化合物の総称。自然界で非常に分解されにくいため「永遠の化学物質」とも呼ばれます。自然環境に放出されると水などに蓄積するほか、人体への毒性も指摘されています。
たくさんあるPFASのうち、「PFOS」と「PFOA」は熱に強く水や油をはじく性質があります。その特性からフライパンのコーティング剤や食品の包装紙にも使われてきました。もちろん、フライパンや食品以外にもすさまじい数のいろんな製品に使われています。
しかし、PFASのさまざまな危険性から、国際条約では廃絶と使用規制が呼びかけられています。
日本でも「PFOS」と「PFOA」のみ製造と輸入は原則禁止しています。しかし、上述した通り自然界では極めて分解しにくい物質。そのため、近年も国内のさまざまな地域の河川や地下水から高濃度のPFASが検出されています。
化粧品で使用されるPFAS
イギリスの化粧品業界組織(CTPA)によると、約4730種類あると言われるPFASのうち、9種類が化粧品に使用されている可能性があるとされています。
なぜ化粧品にPFASが使われるの?
ほとんどの場合、製品をなめらかにして塗りやすくするために使われています。例えば次のような製品に入っている可能性が。
- 化粧水
- クレンジング
- マニキュア
- ファンデーション
- 口紅
- アイライナー
- アイシャドー
- マスカラ
使用感の向上のほか、耐水性を高める効果もあります。また、光沢感や縮毛防止効果からヘアトリートメントに使われることもあります。
どの種類のPFASが使われる?
化粧品に使用される最も一般的なPFASは、次のとおりです。
- PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
- パーフルオロオクチルトリエトキシシラン
- パーフルオロノニルジメチコン
- パーフルオロデカリン
- パーフルオロヘキサン
どれも長い名前で覚えにくいですね。そんな場合は、「パールフオロ」や「トリフルオロ」と成分名に書かれていたらPFASの可能性があることを知っておくといいかもしれません。
どのぐらい化粧品にPFASが使用されている?
イギリスのCTPAによる2020年の調査では、わずか1.5%でした。そして2020年以降、PFASの安全性への懸念が高まっていることから、現在はそれ以下の使用頻度ではないかと予想されています。
しかしこれは、イギリスのCTPA会員企業からの報告に基づいた数字。そのため、日本ではありません。
日本での使用実態は?
2013年と2016年に調査された時点では、日本でも下記のような化粧品にPFASが含まれていました。
- 日焼け止め
- リキッドファンデーション
- パウダーファンデーション
- 化粧下地
- 口紅
- マニキュア
検出されたPFASは15種類。特にファンデーションと化粧下地で多く検出されました。
この調査の後、有害性が確実な「PFOS」と「PFOA」の使用規制が開始。そのため現在は、この2種類は使われていないでしょう。しかし代わりに使用され始めた他のPFAS成分の安全性にも懸念は残っています。
PFASが入っている化粧品は安全?
PFASによる人体への影響はまだ解明されていないことがたくさんあります。しかし、一般的にPFASの血中濃度が高くなると下記のような影響が出る可能性があるとされています。
生殖機能への影響
妊娠可能性の低下や妊婦の高血圧・子癇前症のリスク増加などの生殖への影響
子供の発達への影響や遅れ
胎児の発育への影響、低出生体重児、思春期の早まり、骨の変化、行動の変化など
がんのリスク増加
前立腺がん、腎臓がん、精巣がんなど、一部のがんのリスク増加
免疫系への影響
ワクチン反応の低下など、身体の免疫系が感染症と戦う能力の低下
ホルモンバランスへの影響
体内の天然ホルモンの阻害
コレステロール値への影響
コレステロール値の上昇や肥満リスクの増加
上記のような健康リスクが懸念されるとはいえ、化粧品に含まれるPFASの量はごくわずか。そのため、一般的には化粧品の使用でこうした影響を受ける危険性はないとされています。
また、ほとんどの国では化粧品の安全性には基準が設けられています。該当する「安全法や基準をクリアしていない成分は使われていない」との観点から、使用は問題ないとされることもしばしば。
一方で、PFASが経皮吸収される可能性も示唆されています。また、「PFOS」と「PFOA」以外の多くのPFASの使用規制はまだ整っていません。
参考記事:化粧品のPFASは皮膚から吸収される?
まだわからないことも多いPFASによる影響。少ししか入っていないから大丈夫とする人。わずかにでもリスクがあるなら避けたいと思う人。考え方は分かれそうですね。
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