深刻化するマイクロプラスチック汚染
2023年8月。体内に侵入したマイクロプラスチックによる研究結果がInternational Journal of Molecular Scienceに掲載されました。そこでは、マイクロプラスチックがアルツハイマー病などの深刻な影響を人体に与える危険性が示されています。
プラスチック汚染は世界で広がっています。
とりわけ、プラスチックの中でも微細な粒子であるマイクロプラスチックは、空気や水流に乗って世界のあらゆる地域に浸透しています。空気中、水、食物連鎖に入り込み、その影響はいよいよ人間にも。
マイクロプラスチックが人間や哺乳類に与える影響
マイクロプラスチックによるさまざまな影響については、各国で調査が始まったばかりです。特に、環境や海洋生物への悪影響については広く認識され、調査が進んでいます。
一方で、人間や哺乳類の健康への影響に関する研究は不足。そこで行われたのが今回の研究。ロードアイランド大学のハイメ・ロス教授の研究チームによって、次のような調査が行われました。
- マイクロプラスチックによる神経行動への影響と炎症反応
- 体内でマイクロプラスチックがどのくらい広がるか
- 脳などの組織でのマイクロプラスチック蓄積の可能性
調査の結果、マイクロプラスチックは自然環境の中だけではなく、哺乳類の体内でも広範囲に広がることが判明しました。
マイクロプラスチックで異常行動
研究では、若齢と老齢のマウスにさまざまな量のマイクロプラスチックを与えました。飲料水を通じて3週間投与。その後、マウスの行動の変化と、免疫系に関連する肝臓と脳のバイオマーカーの変化が観察されました。
すると、肝臓と脳の組織において行動と免疫マーカーに変化が。そして、マイクロプラスチックを大量に摂取していなくても、マウスが奇妙な行動をしたのです。
短期間で現れた明らかな変化。特に高齢のマウスでは異常行動が顕著に現れ、その行動はまるでアルツハイマー病や認知症の患者のようであったとされました。
あらゆる臓器に到達したマイクロプラスチック
研究ではマウス体内のさまざまな組織も調査されました。
脳、肝臓、腎臓、消化器系、心臓、脾臓、肺などを調べた結果、マイクロプラスチックは脳を含むすべての臓器から検出。また、尿や糞便からも見つかりました。
実験では、マイクロプラスチックを飲料水から投与していました。そのため、消化器系、肝臓、腎臓からの検出は予想されていたこと。
しかし、実際には心臓、肺、脳にも存在し、生物濃縮が始まっていたことが判明しました。体の隅々まで到達し蓄積する可能性が示されたことは、調査を率いたロス教授にも驚きだったと述べています。
脳組織の奥深くまで
飲料水から摂取されたマイクロプラスチックが脳に達したことは、想像を超える結果です。というのも、外部から侵入した物質が血液脳関門を突破するのは非常に難しいから。
血液脳関門は、ウイルスや細菌が脳に侵入することを阻止する保護バリアとして機能しています。通常は、脳に届く物質を血液脳関門が緻密にコントロールしています。そのおかげで、中枢神経系や脊髄のタンパク質濃度が正常に維持されています。
しかし、マイクロプラスチックは血液脳関門を通過。そして、普通なら到達しないはずの脳組織の奥深くまで、侵入することが明らかにされたのです。
重要なタンパク質の減少も
脳組織に達することで、脳の細胞プロセスをサポートするタンパク質(GFAP)の減少を引き起こす可能性も示されました。この結果を受け、ロス教授は次のように話しています。
「GFAPの減少はうつ病だけでなく、アルツハイマー病などのいくつかの神経変性疾患の初期段階と関連しています。マイクロプラスチックがGFAPシグナル伝達の変化を誘発することがわかり、非常に驚きました」
ロス教授の今後の研究では、今回の発見をさらに調査するとしています。
「プラスチックが脳の自己修復能力に影響を与える可能性、そしてアルツハイマー病などの神経疾患や疾病をどのように引き起こすのかを理解したいと考えています」
「このようなマイクロプラスチックが体内にどのぐらい留まるか、誰もよくわかっていません。年齢を重ねるにつれて、マイクロプラスチックによる炎症を起こしやすくなるのか?体内からマイクロプラスチックを簡単に除去できるのか?細胞はこれらの異物にどんな反応を示すのか?わからないことばかりなのです」
私たちにできること
高齢化が進む日本において、アルツハイマー病や認知症への影響は無視することはできません。
マイクロプラスチックやナノプラスチックがこれらの病気に影響するのだとしたら。
そう考えると、少しでも自分たちができることに取り組みたいですね。日常生活の中でマイクロプラスチックを多く排出していると言われるのは次のようなもの。
- タイヤ(摩耗による排出)
- 合成繊維で作られた衣服
- 人工芝
- プラスチック製品の劣化による破片
- 化粧品・パーソナルケア製品
すぐに生活からすべてを完全に排除するのは難しいかもしれません。でも、衣服や化粧品を素材や成分で選ぶことはできるはず。
特に、化粧品やパーソナルケア製品では、最初からマイクロ・ナノサイズで作られたマイクロプラスチックが使われています。つまり、最初から回収不可能なサイズで作られているということ。
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